1981年東京生まれ。2004年多摩美術大学美術学部絵画科油絵専攻卒業し、2009年毎日新聞社主催による第1回絹谷幸二賞を受賞。現在は東京を拠点に制作活動を行っています。
主な個展として、「Documenting Senses ーイヌではなくネコの視点によってー」(小山登美夫ギャラリー、東京、2015年)、「ノスタルジア」(小山登美夫ギャラリー 京都、2013年)があり、主なグループ展には、「アルファにしてオメガ」(石井友人との二人展 瓜割石庭公園、山形、2020年)、「Sayonara Jupiter」(356 Mission、ロサンゼルス、2017年)、「絵画の在りか」(東京オペラシティ アートギャラリー、東京、2014)、「VOCA展2009」(上野の森美術館、東京、2009)、吉井仁美キュレーションによる「AFTER THE REALITY 2」(ダイチ・プロジェクツ、ニューヨーク、2008)などがあります。またアーティストグループMIHOKANNOの一員として、グループ展に参加しています(「Hello MIHOKANNO」トーキョーワンダーサイト渋谷、東京、2009、「GOOD NIGHT MIHOKANNO」アキバタマビ21、3331 Arts Chiyoda、2011)。
個展
2022 | 「Fertile Break」Antenna Space、上海、中国 「Beautiful Work」Nonaka-Hill、ロサンゼルス、カリフォルニア、アメリカ |
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2020 | 「はたらきびと」小山登美夫ギャラリー、東京 |
2015 | 「Documenting Senses ーイヌではなくネコの視点によってー」小山登美夫ギャラリー、東京 |
2013 | 「ノスタルジア」小山登美夫ギャラリー 京都 |
2011 | 「何かを味方にすること」小山登美夫ギャラリー、東京 |
2008 | 「Local Emotion」小山登美夫ギャラリー、東京 |
2006 | 小山登美夫ギャラリー、東京 |
グループ展
2023 | 「Some Stools」TACOSUAVE、八王子、東京 「BLUE WIND」HIGH ART ARLES、アルル、フランス |
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2021 | 「Natsuyasumi: In the Beginning Was Love」Nonaka-Hill、ロサンゼルス、アメリカ 「Fifteen Painters」Andrew Kreps Gallery、ニューヨーク、アメリカ |
2020 | 「アルファにしてオメガ」瓜割石庭公園、山形 |
2019 | 「island」アートラボはしもと、相模原、神奈川 |
2018 | 「SUPER OPEN STUDIO 2018」LUCKY HAPPY STUDIO、相模原、神奈川 「大野智史スタジオエキシビション」大野智史スタジオ、山梨 |
2017 | 「waiting in vain」statements、東京 「COOL INVITATIONS 4」XYZ collective、東京 「Sayonara Jupiter」356 Mission、ロサンゼルス、アメリカ |
2015 | 「SOMETHINKS『営みと残りかす』福永大介、山本桂輔」アートラボはしもと、相模原、神奈川 「タグチヒロシ・アートコレクション パラダイムシフト てくてく現代美術世界一周」岐阜県美術館、岐阜 |
2014 | 「小山登美夫ギャラリーグループ展」TOLOT/heuristic SHINONOME、東京 「絵画の在りか」東京オペラシティ アートギャラリー、東京 |
2013 | 「であ、しゅとぅるむ」名古屋市民ギャラリー矢田 第1展示室、愛知 |
2011 | 「GOOD NIGHT MIHOKANNO」アキバタマビ21(3331 Arts Chiyoda内)、東京 「FM『REISSUED WOMEN』 デヴィッド・サーレへのオマージュ」Sprout Curation、東京 |
2010 | 「4人のペインティング」小山登美夫ギャラリー 京都 |
2009 | 「現代美術の展望 VOCA展 2009 -新しい平面の作家たち-」上野の森美術館、東京 「 TEAM 15 MIHOKANNO『Hello! MIHOKANNO』」トーキョーワンダーサイト渋谷、東京 |
2008 | 「AFTER THE REALITY 2」Deitch projects、ニューヨーク、アメリカ 「Vrishaba through Mithuna - 松原壮志朗 キュレーション」hiromiyoshii、東京 |
パブリックコレクション
高橋龍太郎コレクション
タグチ・アートコレクション
受賞歴
2009 | 第一回絹谷幸二賞(毎日新聞社主催) |
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出版物
『Local Emotion』2008 小山登美夫ギャラリー 著者: 福永大介
グループ展「Some Stools」TACOSUAVE、八王子、東京
グループ展「BLUE WIND」HIGH ART ARLES、アルル、フランス
個展「Fertile Break」Antenna Space、上海、中国
グループ展「虹の彼方 Over the Rainbow」YIRI ARTS、台北、台湾
個展「Beautiful Work」Nonaka-Hill、ロサンゼルス、アメリカ
個展「Daisuke Fukunaga」inge、NY
グループ展「Natsuyasumi: In the Beginning Was Love」Nonaka-Hill、ロサンゼルス、アメリカ
グループ展「Fifteen Painters」Andrew Kreps Gallery、ニューヨーク、アメリカ
二人展「アルファにしてオメガ」 瓜割石庭公園、山形
オープンスタジオ「SUPER OPEN STUDIO 2019」アートラボはしもと他、相模原、神奈川
オープンスタジオ「SUPER OPEN STUDIO 2018」相模原市内各所、神奈川
オープンアトリエとグループ展開催のお知らせ
グループ展「waiting in vain|池崎拓也、井出賢嗣、齋藤雄介、千葉正也、福永大介、万代洋輔」statements、東京
グループ展「Cool Invitations 4」XYZ collective 、東京
イベント「福永大介 × 大野智史 × 保坂健二朗 トークイベント」
グループ展「SOMETHINKS『営みと残りかす』福永大介、山本桂輔」アートラボはしもと、相模原、神奈川
アート専門番組【MEET YOUR ART】
【今週のPICK UP アーティスト】福永大介 × 森山未來
ナビゲーター:小池藍
運営会社:エイベックス・ビジネス・ディベロップメント株式会社、GATE株式会社
プロデューサー:加藤信介、山本圭介、河口沙月、加藤豊紀
作家セレクション:小池藍
ヘアメイク:須賀元子 スタイリスト:杉山まゆみ
衣裳協力:yoshiokubo GROUNDFLOOR
https://www.instagram.com/yoshiokubo_official/
CFCL
このインタビューは、オープニング(1月22日)当日、ギャラリーで行われたアーティスト・トークの模様を編集したものです。
——— 小山登美夫ギャラリーでは3度目の個展となります。これまで福永さんは、モップや掃除用具、タイヤといった、私たちの身の回りにありながらも、普段は目につかない物体をモチーフとして描かれてきました。今回の展覧会では、福永さんの作品にはじめて人物が描かれています。なぜ人物を描こうと思われたのでしょうか。
福永 人物は以前から描きたいと思っていました。今まではどんな人物を描けばいいのかがわからず、いろいろと考えていました。ただ、人物を描くのならば「人間性」みたいなものが表現したいと思ったんです。また、その「人間性」はいつ表れるのか、とも考えました。新作に登場するのは、掃除夫やベッドメイクをする人といった仕事をしている人— 単純に自分のアルバイト先で出会った人たちを描いているのですが、彼等は制服などを着ているので、一見して「仕事をしているんだな」と理解できる。そういった人たちが、休憩中とか労働の合間合間の瞬間に垣間見せるちょっとした仕草に、その人らしさを感じたんです。それがその人固有の表現なのだと思い、制作をしました。
——— それでは、具体的に作品を挙げながら解説をしていただきます。掃除夫とモップを題材としている『Good counseling』 *1 を説明していただけますか。
福永 これは僕の設定なのですが、この掃除夫は、毎日同じ場所を、同じように掃除している。この人の日々の楽しみは、普段から仕事で慣れ親しんでいるモップに悩みを相談するというか、コミュニケーションをとることが、この人にとって心のより処になっている。だからタイトルがいる『Good counseling』なんです。休憩で仕事を離れる時に見せる、個人的な瞬間。
——— なるほど。すごくプライベートな瞬間を描いているのですね。他の作品もご説明いただけますか。
福永 『private orchestra』 *2 いう作品がわかりやすいかもしれません。このタクトを持っている人が何の仕事をしているかはわからないですが、舞台になっているのはホイール屋さんですね。段々に積まれているホイールが、ステレオのスピーカーみたいに見えたというのが、最初の自分のイメージとしてありました。登場人物の男性は、タイヤが歌っているように見えたんでしょう。それで夜な夜なその場所に行って、自分でタクトを振って、タイヤのオーケストラを作っている。それがこの人の密かな楽しみになっている。
——— それは、今回の個展のタイトル「何かを味方にすること」というテーマにも関係しているように思えます。福永さんはこのテーマについて「人がそれぞれ拠り所にしている領域での振る舞い、例えば仕事だとか、休憩中のある瞬間に自分に何かを憑依させて『味方にする』ことで、人間が豊かに生きていけることを描きたかった」と述べられています。この『private orchestra』に登場する男性の生き様は、まさにこのタクトを振っている瞬間に現れているといえるでしょうか。
福永 そうですね。この人にとってタクトを振るという行為は、趣味とも違って、より根源的というか、この人の生活のモチベーションを維持する為の行いなんです。その姿を描いているのです。
——— 福永さんは、実際にこの行為を見たことがあるのですか。
福永 見たことはないです。最初に僕がホイール屋を見たときに、ホイールの形が面白いし、それがスピーカーにも見えて、ホイールの羅列してある感じが劇場っぽく見えたんですよね。ここでオーケストラみたいなのをしている人がいるんじゃないかな、といった想像から描いています。
——— これらとはまた違った雰囲気の『ピース』 *3 についてもお話を伺えたらと思います。
福永 うーん、これはちょっと違うんですよね。イメージとしては、3人のキャラクターがそれぞれあって、上で双眼鏡を覗いている人は、周りを警戒しながら見ている感じです。右下の人は、ナイーブというか、内向的。左下の人は、希望を持っていて、ポジティブな人です。先に触れた『Good counseling』や『private orchestra』の登場人物たちとは違って、『ピース』で描かれている3人は何かを行っているわけではないです。3人だけで成立しているという意味で、象徴的な絵だとは思います。ちなみに、右奥に描かれている遊園地はサンリオピューロランドなんです(笑)。アミューズメントパークのような人工的な場所から離れて、この3人だけで成立している世界。そこでいい時間を過ごしている。そんなイメージです。
——— 同じく3人の登場人物がいる『MATE』 *4 にも違ったニュアンスを感じます。
福永 これはもっと生活感溢れるというか、アルバイト先の仕事の合間に談笑している人たちの姿を描いているんです。それが、場末の雰囲気というか、バーであったり、クラブであったり、そんな場所で話をしているようなイメージというか。そんな風に見えました。でも、この人たちにとっては、この談笑の瞬間が、いい時間になっている。
——— いい時間の過ごし方は人それぞれで、福永さんはそれを描いているのですね。そして、どのポートレートも、非常に大きなサイズですね。そこに意図はあるのですか。
福永 サイズはその絵のイメージに合った臨場感が最も良く表せるサイズを選んでいます。実際のモチーフよりちょっと大きかったり小さかったりするほうが、リアリティが出ると思うんですね。『Good counseling』のモップも、だいたい実物大くらいだと思います。こういったモチーフを小さなサイズで描いたら、ミニチュア的になってしまうんですね。臨場感が失われる。
——— テクニックについて質問します。福永さんの作品には独特の雰囲気がありますが、それを出すための技術的な工夫はありますか。
福永 自分が作品をよしとする判断は色と質と形が合致した表現になっているかどうかです。そこがOKを出せるかの判断基準になっています。あと、タッチの意識はしていますね。前回の個展(『Local Emotion』、2008)から反省しているのは、絵のタッチに対する意識なんです。タッチの的確さというのはかなり意識しています。一層目から形に沿ったなタッチを心かけて積み重ねています。その上で、色や質がともなってきたときに、画面が決まったという実感がある。
——— 的確なタッチというのは、モチーフの質感表現として的確なタッチという意味なのですか。それとも、福永さんのイメージに対して的確なタッチという意味なのでしょうか。
福永 そこは両者が重なり合う部分があると思うのですが、どちらかといえば自分のイメージに対して的確かどうかが重要ですね。
——— (観客の方からの質問)
作品の時代背景などがあれば教えてください。また、外国の方をモデルに描かれているのでしょうか。
福永 時代背景は、全て現代ですね。自分が感じるものは、現代だと思うので。『HoTEL Woman』 *5 のモデルの女性は、黒人の方ですが、他の作品は違います。『Nice approaching』 *6 という作品を見ていただければわかりますが、衣装は足袋なんかも履いていますし、現代の設定ですね。ただ、現代の制服みたいなものは、記号的な感じになりがちなので、避けるようにしています。
——— (観客の方からの質問)
ドローイングはペインティングの下絵として描かれたものですか。
福永 そういったわけではありません。例えば、廊下に展示してある2枚の『HOTEL WOMAN』 *7 というドローイングですが、そもそもあの作品をペインティングにするかどうか決めて描いたわけではないんです。とりあえず、彼女に出会った体験がとても気になっていたので、ドローイングとして何枚か描きとめました。その中から選んだ2枚です。
——— (観客の方からの質問)
福永さんの中で、制作において一番大事にしていることは何ですか。
福永 自分が最初に感じたイメージは、絶対に形にしなければならないものだと思っています。それは、途中では変えません。最初のイメージに、何かを付加していくのは、ありだと思うんですけれど。その上で、自分でもいい意味でわからないような、最初持っているイメージを超えるような作品になることもあってそれもベストだと思っています。
Interview by Tomio Koyama Gallery
Kei Okano :works
Ikuhiro Watanabe :works
このインタビューは、「4人のペインティング」展のレセプション(1月14日)当日、ギャラリーで行われたアーティスト・トークの模様を編集したものです。
——— 作品についてお話を聞かせて下さい。
福永 まず、僕の描くものは現実に自分が見て、強く印象に残ったものです。全くのイメージというか、空想のようなものは出てきません。ただ、実際に見たものといっても、こういう庭とか家が実在するわけではありません *1。サーフボードとか、よく分からないベニヤの合板とか、そういうものが普段自分の中でかなり強く印象に残っているのです。
あと全体的なもわっとした、暗い、殺伐とした風景のような、そういう妙だと感じる雰囲気も絵の要素としてひとつあります。あとモチーフや、光、そういうものを組み合わせて一枚の絵が作られているという感じです。
二年前くらいから、わりと一つに定まったモチーフで、モップというのが出て来ています *2。モップって普段なかなか見ていないと思いますが、街中にすごくいっぱいあるんですよ。それが強く印象に残っていて、もう街を歩いているだけで、モップっていうものが、どんどん発見されていくんですよね。モップが置いてあるところも絶対分かってきます。
最近タイヤも描いているのですが、タイヤのあるところもよく分かって来ました。それは事象学というのとは関係ないと思うんですけど、僕の中ではタイヤとかモップが置かれている様が、そこだけ時間のズレている、抜け落ちている様な印象を感じてて、それがとてもドラマティックに思えて描いています。
この作品は「ロッカールーム」というタイトルなのですが *2、スーパーでトイレなんかに行った時に裏を通っていて、そこで垣間見たロッカールームに入っている、くしゃくしゃしたモップを描いています。こっちの作品は建築中のビルの、まだ電気工事もしていない地下室には掃除用具がたくさんあるんですけど、そういう裏側を描いています *3。
——— 最初に写真を撮って、それを元に描くということはあるんですか?
福永 部分的にはあります。気に入ったモップを写真に撮って、それを見てドローイングをしたり、見ながら描いたりもします。写真全部をそのまま写すというのはありません。色んな要素や印象を持って来て、ひとつの絵にしています。
——— 昨年の小山登美夫ギャラリーの東京で行った個展の時とは *4、少し色合いが違うような印象を受けますが、それについてはご自身ではどうですか?
福永 そうですよね、前はけっこうえぐかったと思います。それは造形的な問題になってくるのですが、あんまりガシガシと描きたくないというか、そこまでのめり込めないというか・・・。ちょっとわざとらしく感じるようになったんです。
そうすると今度は、完成というのがかなり曖昧になってきて、絵を描くのに時間がかかって、最近困っています。絵の終わり、完成の時っていうのは何なんだろうなと、絵を描いたり作品を作る人は皆考えると思います。この四角いスクエアの絵は *1、一年半以上かかっているんですよ。最初は一ヶ月くらい描いて完成かなと思ったのですが、ちょっと寝かせておいて、それから一年くらい経ってギャラリーに出そうと思って広げてみたらぜんぜんダメだみたいな感じで、また続けて描きました。何というか、作品と自分の軸があるんですよね。
——— 作品の軸っていうのは、こうありたいっていう作品の理想があって、あと自分がいて、ということですか?
福永 今はこういう方向に持っていきたいみたいな自分がいて、あと作品の実際の完成度があって。それが、総合的に積み重なっていって完成していくと思のですが。
——— 時と場合によって、その軸がずれていく?
福永 そうですね、自分の価値観がずれていくんですよね。えぐいというか、攻めた感じが良いと思う時と、さらっとしたものが良いと思う時とがあって。実際の作品は、動かしていってどんどん変わっていくのですが。そこで良いと思った最良の出会いというか、タイミングですね。そのタイミングが来た時に、完成になるんだと思います。結局は、作品によるんですけど。
——— モップは人の象徴のようなものなんですか?
福永 モップというのは、人っぽい感じに見えたというか、そういう存在感が見えているというのはあります。
——— それは形からくるのですか、それとも役割的なものですか?
福永 形ですね。最初見た時、モップが色んなところにささっていて、その存在感を描いていくうちに髪の毛っぽい感じになっていったり、顔に見えてきてしまいました。ビルの片隅にたたずむ人みたいな感じもします。
——— どうしてもモップのあるところに目がいってしまうというか、モップの位置を把握してしまうとおっしゃっていたのですが、(モップが)好きということですか? その気持ちの行き方というのは、ネガティブでかわいそうということなのか、汚れていつも大変だねという感じなのか、それとも「あ、いたいた」という安心感のような感じですか?
福永 ああ、こんな所にもいたんだねみたいな。山でキノコを発見しているような感じですかね。かわいそうとか、ネガティブなイメージはないです。触りたくはないですが、でもその存在がけっこう良い。
——— 買ってしまうというのはないんですか?
福永 ないですね。街中に何気なく置いてある状況とかがやっぱり良いので。アトリエに置いておくということもありません。
Interview by Tomio Koyama Gallery
作家インタビュー
美術手帖 2015年9月号 ART NAVIより
野路千晶=文
吉次史成=撮影
市井の「もの」に捧げるドキュメント
一列に並んだ掃除用モップ、無造作に立てかけられたタイヤのホイール、あるいは光沢のあるバイクシート。 福永大介がモチーフとして選び、描くのは、取るに足らない、ある目的のためだけに機能する日常の道具たちだ。
小山登美夫ギャラリー東京で9月12日より開催する新作展のタイトルは「Documenting Senses -イヌではなくネコの視点によって-」。福永の視点は、気ままに街を回遊するネコのそれとして副題で表される。「建物の裏側、路地裏、バックヤードなど、表からは見えない場所に惹かれます」。そうしたスペースの一角で、つい「見つけてしまう」というモチーフは、表現主義を思わせる豊かな色彩によって絵画化される。「色をたくさん使っているけど、自分が大切にしているのは全体のトーンだと思います」。福永の話す「トーン」には、色調だけではなく、自らの感情、印象といった意味も含まれる。「ものから感情を汲み取ると同時に、自分の印象や感情を反映させています」。商業施設の一角に置かれたモップ、あるいは国道沿いに殺風景に打ち捨てられるホイールは、作家との交感を経て、あたかも擬人化されたように固有の佇まいを放ち始める。しかし、表現においてはあくまで「あるがままの姿を描いています」と言う。その姿勢によってもたらされものは、いわば道具たちの「ポートレイト」だと言えるのだろう。だが、より最適な言葉として、作家は「ドキュメント」を選ぶ。福永による絵画作品は、イメージや意味の顕れである以前に、自身の感情の機微、対象への感応をとらえた高精細な記録となっていく。色鮮やかに彩られた、ありふれた「もの」が見せる姿は、まぎれもなく福永の視座そのものなのだ。