この度小山登美夫ギャラリーではドイツの彫刻家、シュテファン・バルケンホール展を開催いたします。
バルケンホールは、世界中で数多くの展覧会を開催していますが、日本での初個展は2005年、大阪の国立国際美術館と東京オペラシティアートギャラリーにて「シュテファン・バルケンホール:木の彫刻とレリーフ」を開催し大きな話題になりました。その後2007年小山登美夫ギャラリー(清澄)、2011年小山登美夫ギャラリー(京都)での個展を経て、本展は8年ぶり3度目の当ギャラリーでの展覧会開催となり最新作を発表いたします。
【シュテファン・バルケンホールについて 】
シュテファン・バルケンホールは、1957年ドイツ、ヘッセン州生まれ。1976年ナム・ジュン・パイク、シグマー・ポルケらが教鞭をとっていたハンブルグ造形大学に入学し、ミニマルな彫刻家として有名なウルリッヒ・リュックリームに師事しました。
80年代以降は「私は中断された伝統を再開するために、人物像をもう一度、発明しなければならない。」という考えを元に本格的に人物像の制作に着手。以降一貫して人物や動物、建築などをモチーフとし、一本の木から台座ごと彫り出す立像、その背景としての役割を担うようなレリーフなど、粗く削られた木やブロンズに着彩をほどこした彫刻作品を制作しています。
彼の作品には人物、動物の描写とミニマリズムを両立させた「普通のようで普通でない」独特の世界観と、作家の人間と動物への尽きることのない興味の眼差しがあり、またさりげない軽やかとユーモアも感じさせ、多くの人々を魅了してきました。
そこには、1972年バルケンホール15歳当時、「ドクメンタ5」の「Realism」展(キュレーション:ジャン=クリストフ・アマン)に強い興味を持ち、数多くの具象絵画や彫刻を目にして「自分だけのポップ・アートを作る」と心に決めたという思いも影響していると言えるでしょう。(ニール・ベネズラ『Stephan Balkenhol: Refiguring a Tradition』、「Stephan Balkenhol Sculpture and Drawings」カタログ、ハーシュホーン彫刻庭園美術館、1995年より)
現在にいたるまで世界中で幾多もの展覧会を開催しており、(主な展覧会歴は下記URLをご覧ください。http://tomiokoyamagallery.com/artists/stephan-balkenhol/#artist-biography)作品はシカゴ美術館、ハーシュホーン美術館、ブロード・アート・ファウンデーション(サンタモニカ)、ロサンゼルス・カウンティ美術館、ルードヴィヒ美術館、ボン美術館、フランクフルト現代美術館をはじめ、数多くの美術館に所蔵されています。日本では、国立国際美術館、東京国立近代美術館にコレクションされています。
【バルケンホールの作品について – 「生き生きとしているか」 】
バルケンホールにとって制作の重点のひとつは、「生き生きしているか」ということだと言います。それは作品の独特な表情にも表れています。
作品のモチーフとなる人物は、バルケンホール自身が「ミスター・エヴリマン(Mr. Everyman)」と名付けていたように、どこにでもいそうな「どこかの誰か」であり、「誰でもありうる」ようです。特定のモデルはなく、新聞記事の中の人物や通りがかりの人など様々なイメージが重なり合い、どの顔も喜怒哀楽がなく無表情で、一見すると「生き生きしている」ようには見えないかもしれません。
しかしバルケンホールの人物像がなぜそのような表情をしているのか、作家自身次のように語っています。
「・・それらは楽しい、あるいは悲しいなどの表情を持たず、比較的相違がありません。これは『ある表情の探求』であって、それらすべての雰囲気を発生させることができなければいけないんです。これは私がある特定の表現主義的な表情を像に定着させるよりも、より心を揺り動かすものになるんですよ。次の瞬間に、像が悲しい表情になったり、楽しい表情になったりと。。。」
(シュテファン・バルケンホールインタビュー『マテリアルとの対話』ききて:安藤由佳子、美術手帖2005年11月号)
バルケンホールの作品には、観る人の数だけ、その人特有の着眼点が生じてくるでしょう。私たちは、作品に自身の記憶や意識を投影し、自分だけに見える表情を探し出す楽しみを見出すことができます。それにより、作品は鑑賞者の中で「生き生きと」してくるのです。
作品表面の粗い削りにもそれは表れています。
「これ(粗い表面)も純粋に『生き生きしている』状態をつくりだすためです。(中略)機械や工具を使うのに慣れていれば、彫刻の作業も描くことやドローイングをするのと同じです。・・時として、スケッチ感覚で素早く仕事を進めるのは、とても心地良いんですよ。」
(シュテファン・バルケンホールインタビュー『マテリアルとの対話』ききて:安藤由佳子、美術手帖2005年11月号)
【作品の三次元性と二次元性、彫刻 – 空間 – 観客】
ドローイングに関しての言及があるように、バルケンホール作品は、立像とその背景となるレリーフやドローイングといった三次元性と二次元性を巧みにあやつり、作品と空間との関係性の追求により、より立体的な想像の世界を広げています。
また、作品のサイズに関しても次のように語っています。
「時として小さい作品が大きな作品よりもよりモニュメント的に作用したりするんです。イメージというか、、周りの空間を運んでくれるんですよ。(中略)大きな空間に小さな彫刻を置くと、一番引き立ったりするんですよ。『あそこにあるのは何だ?』って感じで、観客の好奇心をかきたてるんですね。このように彫刻が空間や観客と関わることに興味がありますし、しばしば大きな作品が小さな空間で、より効果的に機能するんです。」
(シュテファン・バルケンホールインタビュー『マテリアルとの対話』ききて:安藤由佳子、美術手帖2005年11月号)
そして彫刻における三次元性と二次元性の関係においては特にレリーフにその特徴が多く表れており、バルケンホールのレリーフ作品と写真との関連性についてインディペンデント・キュレーター(元東京オペラシティアートギャラリー キュレーター)の飯田志保子氏は次のように言及しています。
「バルケンホールの場合は「木に写したポラロイド (polaroid in wood)」と言及されるなど、写真との関連が強い。モチーフの人物や街などがきわめて現代的であることや、像を刻むスピードを感じさせる粗い彫り込みが、瞬間を定着させるという意味でスナップ・ショットのような即時性を感じさせる」
(「シュテファン・バルケンホール:木の彫刻とレリーフ」展カタログ、国立国際美術館、東京オペラシティアートギャラリー、2005年)
バルケンホールは、私たちがイメージする「彫刻」の概念を超えて、展示空間、作品の関係性を追求しながら観客の視点を取り込み、観るものを生き生きと楽しい想像の旅へといざないます。
六本木の小山登美夫ギャラリーのスペースで、どんな新しいバルケンホールの世界を見せてくれるのでしょうか。この貴重な機会にぜひお越しください。
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