日高理恵子

日高 理恵子展

Installatiion view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2007 ©Rieko Hidaka

【作品紹介】

日高理恵子の絵画作品には一貫して、モノクロームの樹木が描かれています。枝々の先の先まで執拗に描き続けられるこれらの木々はしかし、あらゆる意味や 感情を一切よせつけず、私たちが見知っている風景画としての木—そのものの生命力、それが息づく風土、理想主義的な象徴、或は枯れ枝に宿る「老い」の象徴など—のどれにも当てはまることはありません。
原野に屹立する樹林が地平線とともに描かれていた「水平の視点」の初期作品から、「私の眼はすでに画面を構成するすべての場所を同じ強度で見、同じ密度で描かずにはいられなかった」と日高は語ります。その後「見上げる視点」によって描かれた『樹を見上げて』では、自分自身をとりかこむ空間そのものを表現 したい、という空間への意識が初めて生まれました。
巡る季節を経て形を変えてゆく木々に向き合い続ける作家は、やがて同じ木を見ていても、枝は線的な空間 に、葉は面的な空間に感じるようになります。個としての木を示すような木肌のニュアンスなどの写実的描写はそぎ落とされ、描かれた木が存在する場所の空気 感に限らない、より匿名の場へと通じる空間が、次の『樹の空間から』に開けていきます。
生い茂る葉の重なり合う様、或は葉をすっかり落とした枝々と空との コントラストは、木の合間から窺える空の空間の存在を強く感じさせることになりました。画面の中の深度を得るため、より重層的な枝の重なり、近くに見えて いる枝から眼で見極められないくらい遠い枝葉までも画面として切り取ってきた日高は、いわゆる遠近法的な奥行き、空気遠近法的な描写とは違う、一枝を集中 して見るとその枝がとても遠いようにも近いようにも見えてくるような、より見極められない距離感に魅力を感じ始めます。

【展覧会について】

こうして2002年に『空との距離』の第1作目が生まれました。花芽をつけた木の表現はミニマルになり、続く2作目における葉の表現も細かな部分までくっきりと描かれるようになります。 「見つづけるということは測りしれない存在を強く感じると同時に、現実的な形をより一層鮮明に見ることになる。この表裏一体の要素を見ること、描くこと、 感じることによって越えていきたい。そして少しでもあの空の空間に近づきたい」という作家の欲求は、より具体的で克明な描写につながり、それでいてそこに 表現されるのはより抽象的な、絵画空間としての広がりであったのです。
「見つめれば、見つめるほどに見えてくる測りしれない距離、この測りしれない距離・空間をリアルに感じ続けるために樹を見上げ、描く。そしてこの距離・空間から絵画の距 離・空間を探りたい」という作家の言葉が示すとおり、今回ご紹介する『空との距離』と題されたシリーズは、まさに空間を感じるための展覧会です。
本展で出展される作品は、『空との距離』の新作です。3点組の大作を含む新作ペインティング6点と、同じ構図によるドローイング6点を展示致します。樹を見上げ描くことによって、絵画の距離・空間を探る作家の新しい試みを、是非御高覧下さい。