この度小山登美夫ギャラリーでは、陶の立体作品、絵画などジャンルにとらわれず精力的に制作を続ける86歳のアーティスト、伊藤慶二の個展を開催いたします。
本展は作家にとって弊廊における初個展となり、最新作である陶の立体、伊藤の源流ともなる油絵の近作、そして今回のために制作された布と糸のコラージュ作品を展示いたします。
【展示風景 オンラインビューイング】
協力:Matterport by wonderstock_photo
【伊藤慶二と作品について – 陶、彫刻、絵画、クラフト、アートを自然体で自由に横断する 】
伊藤作品の、既成の枠組みにとらわれない自由な発想は、作家の経歴、興味にも色濃く現れています。 伊藤慶二(1935-)は岐阜県土岐市生まれ。窯業が盛んで、安土桃山期に焼き物の大きな改革をしている美濃で育った伊藤は、この地に誇りをもち、現在も自宅と工房を構え制作しています。
1954年武蔵野美術学校に入学。森芳雄、麻生三郎、山口長男らに師事し油画を専攻。学生時代は、モディリアーニ、ピカソ、クレー、カンディンスキーや、明日香の巨大石造物、飛鳥大仏や薬師寺講堂の廃仏にも惹かれていたといいます。
卒業後は、岐阜県陶磁器試験場デザイン室に籍を置き、クラフト運動の指導者、日野根作三に大きな影響を受けました。当初は平面での意匠のみ行っていましたが、実際の立体とのつながりに限界を感じ、自らやきもの制作を手がけ始めます。以降日常の器や茶器、クラフトに加え、早くから鉄など他素材もくみあわせた「陶による彫刻」「インスタレーション」のような立体造形を発表してきました。その姿は多くの若い作家の指針となり、美濃の現代やきものを牽引しています。
また70歳を過ぎてからは、工房の他自宅内に絵画のアトリエも設置。純粋に絵画を楽しみ、20歳前後に叩き込んだ東西の美術の素養がより新たな作品世界として展開される大きなきっかけともなりました。
そのジャンルを軽やかに横断する作品世界は、伊藤がそこへの強い意識を持つというより、自由に自然体で向き合って表しているのも大きな特徴といえるでしょう。自身次のように語っています。
「使うものと、アートに近いものと。二本の柱は意識していました。(中略)若い頃にキャンパスに描いていた絵が土に変わったくらいの感覚というか。別にそこに大きな違いがあるとは感じません。」
「用を持ったものでも、すごくアートに近いものってあるんじゃないかと。例えばボウルでも、そこに蓋をしてしまえば、アート作品になりうるのかもしれない。あまり、自分の中でそういった分類は意識していないです。」
永続的な存在性を示すような立体造形、多様な作品群は大きな支持を得ており、主な個展に「伊藤慶二 こころの尺度」展 (岐阜県美術館/パラミタミュージアム、三重、2011年)、「伊藤慶二展 ペインティング・クラフト・フォルム」(岐阜県現代陶芸美術館、2013年)などがあり、作品は北海道立近代美術館、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、ホノルル現代美術館、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館など、国内外多くの美術館に所蔵されています。
【本展の新作について- 多彩な表現を通して表す「人間とはいかなる存在か」、「やきものだからこそ」】
本展の新作は、「おとこ」「おんな」「つら」「ほうよう」「うずくまる」といった、根源的な人の姿とその動作を表した陶の立体作品であり、出展の絵画作品、コラージュ作品にもタイトル、テーマとして通じています。
堂々としたようで、飄々ともしている。威厳があるようで、どこかおかしみを感じさせる。作品は緊張感と温かみを同時に感じさせてくれるような、独特の空気感を纏っています。
この作品群のルーツとも言える「面(つら)」シリーズが制作されたのは、2008年からであり、それまでの伊藤作品の「祈り」「HIROSHIMA」シリーズなどの寡黙で難解といった印象からがらりとかわった作風に、昔から作品を知る人々は驚きを隠せなかったと言います。
2008年はちょうど絵画アトリエを作った時期であり、自らの源流を解き放し「面(つら)」シリーズとして陶作品に昇華させたとのだと言えるでしょう。
面(つら)シリーズに関して、岐阜県美術館学芸員(現副館長兼学芸部長)の正村美里は、次のように述べています。 「社会的メッセージ、物と物との関係性といった、どちらかといえば、対外の視点で制作してきた伊藤が、自分も含めた人間というやっかいな「いきもの」のうちに関わり始めたのである。彼は今、このことが楽しくて仕方ないのだという。」
「やきものの《面》が彫塑と根本的に異なるのは、『焼く』という行程が加わることによって、人知を超えたマチエールが加わることである。焼くという、人為で100%コントロールすることのできないこの行程が、伊藤が人間をつくる上でとても重要なのである。」
今回の展覧会のカタログに寄せたテキストで、藤森照信は、伊藤が作品で土を扱う意義について次のように表しています。
「土は、扱う人の意識と見る人の視線をスポンジのように吸い取ってしまう。 人は、意識を吸い取る土の上に足を置いて生存している。 土を扱う表現者は、土と触れていると、次第に自意識が吸収されて消え、祈りという無私の空間に到る、のではないか。」
コントロールできない行程が引き出す、土独特の質感。世界は人知を超えたものであり、そして人間もまた人間が100%コントロールすることができない存在である。伊藤は作品を通して「人間とはいかなる存在か」を表現しようとしていると言えるでしょう。
また布と糸のコラージュは今回のために制作された最新作です。玉留めの部分は戦時中の千人針からインスピレーションを受け、反戦メッセージ、祈りに通じています。そしてモチーフは自身「立方体というごくシンプルな形に惹かれる」というように四角と三角の組み合わせの「家」、「おとこ」と「おんな」の陰陽とも通じる「太陽と月」など、まるで布に糸で描かれたドローイングのようであり、土とはまた違う日常的な素材としての多様さを感じさせます。
秋元雄二は、伊藤作品に関して次のように評しています。
「皿だろうが、人の顔をした彫刻だろうが、伊藤は、自分が生活する上で必要なものを制作しているに過ぎない。そもそも美術を行うというのは暮らしの中にあるものだ。人が生き、暮らし、そこから作品が生まれる。伊藤はただそれに忠実なだけなのである。」(今回の展覧会カタログから)
現代生活の中で忘れられがちな、生活とは、人間とはといった根源的な問いを体感できる本展。この貴重な機会にぜひお越しください。
【本展図録刊行のお知らせ】
本展にあわせ、小山登美夫ギャラリーより「伊藤慶二展」図録を刊行いたします。
ギャラリー店頭、OIL by 美術手帖にてご購入いただけますので、ぜひご高覧ください。
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プレスに関するお問い合わせ先:
Tel: 03-6459-4030 (小山登美夫ギャラリー オフィス)
Email: press@tomiokoyamagallery.com
(プレス担当:岡戸麻希子)
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