ヴァルダ・カイヴァーノは、1971年アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれ。2004年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて修士号を取得しました。その以前には、ブエノスアイレス大学にて生物学と美術史専攻し、2000年代初期にイギリスに拠点を移し、ゴールドスミス・カレッジにて学士を取得。現在もロンドンを拠点に制作しており、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートおよびアムステルダムのアーティストレジデンス施設であるDe Ateliersにて客員講師を務めています。
主な個展として、2016年小山登美夫ギャラリー、2015年シカゴ大学ルネッサンス・ソサエティでの「The DENSITY of the ACTIONS」、Victoria Miro(ロンドン、2015年、2011年、2005年)などがあります。批評家の美術評論家のバリー・シュワブスキーは、2011年にVictoria Miroでの個展「Voice」について、「この展覧会『Voice』において、カイヴァーノはロンドンで最も将来を約束された若手ペインターから、年齢、地域に関わらず、現在最も優れたペインターのうちの1人へと変身を遂げた。」(Art Forum 297頁、2011年5月)と評しました。主なグループ展には、2013年第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の企画展「エンサイクロペディック・パレス(The Encyclopedic Palace)」、2012年光州ビエンナーレ2012(韓国)があります。日本では国立国際美術館に作品が収蔵されています。
個展
2022 | 「Moonlight Paintings」Mendes Wood DM、ブリュッセル、ベルギー 「En México」Lulu by X Museum、メキシコシティ、メキシコ Mendes Wood DM、サンパウロ、ブラジル |
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2021 | Mendes Wood DM、サンパウロ、ブラジル |
2019 | 小山登美夫ギャラリー、東京 |
2016 | 小山登美夫ギャラリー、東京 |
2015 | 「The DENSITY of the ACTIONS」The Renaissance Society、シカゴ、アメリカ Victoria Miro、ロンドン、イギリス |
2013 | 「In the Studio」小山登美夫ギャラリー、東京 |
2012 | CIRCUS、ベルリン、ドイツ |
2011 | 「Voice」Victoria Miro、ロンドン、イギリス |
2009 | 「The Inner Me」小山登美夫ギャラリー、京都 |
2007 | Chisenhale Gallery、ロンドン、イギリス Sies + Höke Galerie、デュッセルドルフ、ドイツ |
2006 | Kunstverein Freiburg、フライブルク、ドイツ |
2005 | Victoria Miro、ロンドン、イギリス |
グループ展
2023 | 「Paper Trail」Mendes Wood DM、レトランヘメント、オランダ |
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2022 | 「All season sanctuary」Mendes Wood DM、レトランヘメント、オランダ 「The Kingfisher’s Wing」GRIMM、ニューヨーク、アメリカ 「A Minor Constellation」Chris Sharp Gallery、ロサンゼルス、アメリカ 「ナチュラル・ファンクション」スパイラルガーデン、東京 |
2020 | 「No Horizon, no edge to liquid」Zabludowicz Collection、ロンドン、イギリス |
2019 | 「球体のパレット~タグチ・アートコレクション~」北海道立帯広美術館/北海道立釧路芸術館/北海道立函館美術館/札幌芸術の森美術館、北海道 「Slow Painting」リーズ美術館、ウェスト・ヨークシャー、イギリス[The Levinsky Gallery、プリマス、イギリス/The Edge(Bath University)& Bath Spa University、バース、イギリス/Inverness Museum & Art Gallery and Thurso Art Gallery、インヴァネス、イギリスへ巡回] |
2018 | 「コレクション2:80年代の時代精神から」国立国際美術館、大阪 「The Divine Joke」キュレーション:バリー・シュワブスキー、Anita Rogers Gallery、ニューヨーク、アメリカ 「Surface Work」Victoria Miro (Wharf Road)、ロンドン、イギリス |
2017 | 小山登美夫ギャラリー グループ展、東京 「Summer Exhibition」Royal Academy、ロンドン、イギリス |
2016 | 「Evolutionary Travels」Fundación Arte, ブエノスアイレス、アルゼンチン 「Between Something and Nothing」Richard Telles、ロサンゼルス、アメリカ 「Permeable Edge」Otter Gallery、チチェスター大学、イギリス 「A Way of Living」A Palazzo Gallery、ブレシア、イタリア 「In this soup we swim」Kingsgate Project Space、ロンドン、イギリス |
2014 | 「小山登美夫ギャラリーグループ展」TOLOT/heuristic SHINONOME、東京 |
2013 | 「アートがあればll −9人のコレクターによる個人コレクションの場合」東京オペラシティ アートギャラリー、東京 「The Encyclopedic Palace」第55回 ヴェネツィアビエンナーレ、イタリア 「Artists’Artists」CentrePasquArt、ベルン、スイス |
2012 | 光州ビエンナーレ、韓国
「S, M, L, XL」Nicolai Wallner、コペンハーゲン、デンマーク 「Three Positions in Painting」Barbara Gross Gallery、ミュンヘン、ドイツ 「コレクション 展」国立国際美術館、大阪 「Is Resistance Useless?」Marcelle Alix、パリ、フランス 「Be With Me」Peter Bergman、ストックホルム、スウェーデン |
2011 | 「Fountains and Drains」The British School at Rome、ローマ、イタリア 「中之島コレクションズ 大阪市立近代美術館 & 国立国際美術館」国立国際美術館、大阪 |
2010 | 「Rebecca Morris, Molly Zuckerman-Hartung, Mary Heilmann and Varda Caivano」Rowley Kennerk Gallery、シカゴ、アメリカ 「レゾナンス 共鳴 人と響き合うアート」サントリーミュージアム、大阪 「British Art Show 7: In the Days of the Comet」ノッティンガム、イギリス[Hayward Gallery、ロンドン、イギリス/グラスゴー現代美術センター、イギリス/プリマスアーツセンター、イギリスへ巡回] |
2009 | 「A Sort of Night to the Mind, A Kind of Night for our Thoughts」Herbert Read Gallery、カンタベリー、イギリス
「We’re Moving (selected graduates)」Royal College of Art、ロンドン、イギリス 「East End Academy: The Painting Edition」Whitechapel Gallery、ロンドン 、イギリス 「CAVE PAINTING: Installment #1」Graham’s Ghost、ニューヨーク、アメリカ |
2008 | 「Rose Tinted Glasses」Gavin Brown passerby、ニューヨーク、アメリカ 「Imaginary Realities: Constructed Worlds in Abstract and Figurative Painting」Max Wigram Gallery, Temporary Exhibition Space、ロンドン、イギリス 「Jerwood Contemporary Painters」Jerwood Space、ロンドン、イギリス 釜山ビエンナーレ、韓国 「M25: Around London」」キュレーション:バリー・シュワブスキー、CCA Andratx、マヨルカ、スペイン 「Swans Reflecting Elephants: Varda Caivano, Renee So, Rose Wylie」Kate MacGarry、ロンドン、イギリス |
2007 | 「Very Abstract and Hyper Figurative」Thomas Dane Gallery、ロンドン、イギリス |
2006 | 「World-Gone-Mad」Herbert Read Gallery、カンタベリー、イギリス/Castlefield Gallery、マンチェスター、イギリス/Limehouse Arts Foundation、ロンドン、イギリス |
2005 | 「Mourning (curated by Varda Caivano)」Sies + Höke Galerie、デュッセルドルフ、ドイツ 「Expanded Painting - Prague Biennale 2」プラハ、チェコ 「London in Züich」Hauser & Wirth Zürich、チューリッヒ、スイス |
2004 | 「Painting 2004」Victoria Miro、ロンドン、イギリス Kerlin Gallery、ダブリン、アイルランド |
2003 | 「Dirty Pictures」The Approach Gallery、ロンドン、イギリス 「Selected Paintings」MW projects、ロンドン、イギリス |
2002 | 「PoT」Galeria Fortes Villaca、サンパウロ/リヴァプールビエンナーレ、ブラジル |
2001 | 「New Contemporaries」Camden Arts Centre、ロンドン、イギリス/Sunderland Museum、サンダーランド、イギリス |
パブリックコレクション
国立国際美術館
タグチ・アートコレクション
ブリティッシュ・カウンシル・コレクション
Zabludowicz Collection、イギリス
出版物
『The Density of the Actions』2015 Victoria Miro Gallery Inc. 著者: ヴァルダ・カイヴァーノ
『The Inner Me』2009 小山登美夫ギャラリー 著者: ヴァルダ・カイヴァーノ
個展「Moonlight Paintings」Mendes Wood DM、ブリュッセル、ベルギー
グループ展「A Minor Constellation」Chris Sharp Gallery、ロサンゼルス、アメリカ
グループ展「All season sanctuary」Mendes Wood DM、レトランヘメント、オランダ
グループ展「The Kingfisher’s Wing」GRIMM、ニューヨーク、アメリカ
グループ展「ナチュラル・ファンクション」 スパイラルガーデン、東京
個展「En México」Lulu by X Museum、メキシコシティ、メキシコ
個展 Mendes Wood DM、サンパウロ、ブラジル
グループ展「Slow Painting」リーズ美術館、ウェスト・ヨークシャー、イギリス
グループ展 「コレクション2:80年代の時代精神から」国立国際美術館、大阪
グループ展「The Divine Joke」キュレーション:バリー・シュワブスキー、Anita Rogers Gallery、ニューヨーク、アメリカ
グループ展「Surface Work」Victoria Miro (Wharf Road)、ロンドン、イギリス
個展 Victoria Miro Mayfair、ロンドン、イギリス
グループ展「アートがあればⅡ −9人のコレクターによる個人コレクションの場合」東京オペラシティ アートギャラリー、東京
「時間をかけて集中すること」:ヴァルダ・カイヴァーノ インタビュー
以下のインタビューは、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art)のウェブサイト(http://www.fuel.rca.ac.uk/) に掲載されたものを日本語訳したものです。
RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)の卒業生Mimei Thompsonが、同じく同校の卒業生であるヴァルダ・カイヴァーノに、彼女の卒業後の制作、生活について質問した。
——— 学生からプロの作家へのトランジションはいかがでしたか。
カイヴァーノ 修士論文に取り組んでいる時というのは体系があります。それは自由を許すものではありますが、それでもなお体系です。学校の外に出ると、自分自身の体系をつくらなければなりません。つまり自分自身のことを知り、また何が自分にとって良いのかを知る必要があります。私の場合は取扱いをしてくれるギャラリーがあったので良かったのです。最初の頃に大変だったのは、私は家族が近くにいなかったので、RCAの文脈がなくスタジオでずっと制作をするのは孤独だったということです。でも一度外に出ると学ぶことがたくさんあります。どのように制作をやっていくか、イメージの複写のこと、一年のスケジュールをどう管理していくか、またあらゆるアトリエ管理のこと。これらは全て新しいことでした。
——— ロンドンはもう故郷のようですか?
カイヴァーノ そうですね、もう随分長くいますから。作品もここで発展させてきましたし。またパートナーやとても良い友人、同僚ともロンドンで出会いました。ですので今となっては故郷のようなものです。
——— 今教えていらっしゃいますか?
カイヴァーノ はい、RCAと、時にはスレード(Slade School of Fine Art)で講師(visiting artist)として教えています。とても楽しんでいます。他の人の役に立っていると思える面白い経験です。私はロンドン出身ではありませんから、海外から来た学生の経験を理解できます。彼らの気持ちがよく分かるのです。
——— ペインターとして、あなたの制作はとてもプライベートなように思えます。いかがでしょう?
カイヴァーノ 個人的な制作、といった方がいいでしょう。作品とはあるナラティブ、ある種の会話があります。時にはアトリエ自体が、ものがその中でつくられ、リサイクルされる頭のように思えます。
——— ペインティングは他の表現形式と違うように考えられていると思いますか?
カイヴァーノ ペインティングにはとても長い伝統があります。ですのでペインティングを制作するということは、ある意味、その伝統と対話をするということです。ペインティングでは素材との関係がとても重要で、他の形式よりも文字から離れたところにあります。つまり言葉で言い換えるのがより難しいということです。音楽もそうであるように、乖離のようなものを生じさせるのです。
——— 展覧会に向けてまとまった作品を制作しますか?それとも常に続いているプロセスなのでしょうか?
カイヴァーノ 私にとって作品とは個々のペインティングということではありません。それは作品をつくるプロセスであり、ペインティングを描くという行為そのものです。通常は一度に多くのペインティングを同時進行で制作します。
——— ペインティングが完成するというのはどうやって分かるのですか?誰かからアドバイスをもらうことはありますか?
カイヴァーノ 私の場合、ペインティングが私を閉め出すような感覚をもつ瞬間があります。いつもは筆を入れることができるのですが、この瞬間には鍵がかかったような感覚なのです。ペインティングは独立性を得て、世界に出ます。締切がある時はスケジュールを調整し、アトリエに友人やパートナーを招きます。ですが、基本的には未完成の作品を人には見せません。
——— ギャラリーでの取扱いが始まった時の経験はどの様な感じでしたか?
カイヴァーノ 学内の展示の際にいくつかのギャラリーに興味をもってもらいました。それは素晴らしいことでしたが、どのギャラリーが一番自分にとって良いかというのは難しいことでした。Victoria Miroと一緒に仕事をすることに決めました。
——— ギャラリー(Victoria Miro Gallery)はどのようにあなたにアプローチしましたか?
カイヴァーノ ギャラリーから修士2年目の時にグループ展に誘われました。卒業したころから、取扱いが始まりました。
——— ネットーワークについてお聞きしたいです。外からみるとあなたは卒業後すぐに順調に進んでいるようにみえますが、なにかアドバイスはありますか?
カイヴァーノ 最も基本的なことは作品です。それが一番重要です。それは楽しいことでもあり、難しいことでもあります。制作のスペース、作品と一人で向き合うこと、そしてそこで起こること。私にとって重要なのはたくさんの作品をつくることです。それはペインティングを通して起こるプロセスです。楽器を演奏する人のように、その楽器のことを知り、何をどう演奏するか。できるだけたくさん演奏し、後からそれを聴いてみる。それ以外のことで大事なのはおそらく、作品を理解してくれる友人や同僚をみつけることでしょう。
——— 卒業してすぐに十分な収入を得ることができましたか?あるいは他のことで収入を得ていましたか?
カイヴァーノ RCAにいた間は奨学金をもらっていました。その後は幸運にも安い家賃のところの住むことができ、また作品が売れ始めました。始めて作品が売れたのは確か、「New Contemporaries」という展覧会でだったと思います。またVictoria Miro Galleryでの始めてのグループ展でも作品が売れ、その分である程度の期間生活することができました。その後は自然に物事が進んでいきました。
——— 現在ローマのレジデンシー、British School at Romeに滞在されています。他にレジデンシーの経験はありますか?
カイヴァーノ はい、コネチカットのSteep Rockという地方で。素晴らしかったです。
——— 作品やキャリアについてアドバイスをくれる特定の人はいますか?
カイヴァーノ はい、友人や家族、そして彼自身アーティストであるパートナーです。
——— ギャラリーとの関係はどうですか?自信のある、プロの顔をみせなければと思いますか?
カイヴァーノ 全く。コラボレーションという感じです。
——— 彼らとはリラックスできますか?
カイヴァーノ はい、できます。
——— このような関係について、何かアドバイスはありますか?
カイヴァーノ 重要なことは、ゆっくりと構えて制作に集中することです。それと作品を深く理解してくれる友人や同僚を見つけることです。
courtesy by Royal College of Art
——— まず、基本的なことを聞かせて下さい。手法について。
カイヴァーノ そうですね、それぞれの作品によるのですが、主に2種類のやり方でキャンバスの準備をします。オイルベースの下地と水ベースの下地があります。それぞれ表面をガラスのようにするか、石のようにし、それによってペインティングが違うようにみえます。つまり表面が絵の具を吸収するかしないかの違いです。
——— ではこのペインティングはどちらですか?*1
カイヴァーノ オイルです。だから絵の具がしたたり落ちているのです。
——— 油彩を使うんですよね。
カイヴァーノ はい。時たま水彩も使いますがほとんどは油彩です。パステルオイルも使う事があります。これは顔料とメディウムでできているものです。*2
——— それからワニス(つや出し)を使っているのを見ました。
カイヴァーノ はい、時々使います。例えばある部分が明るく、ある部分はぼんやりとした感じの時、そのコントラストを保つためです。また私の作品に関する手法的なことで、特徴があるとすれば次のようなことです。基本的にペインティング、あるいはあらゆるファインアーツ、また音楽もそうですが、アーティストが作品を制作するときに使う手法というもの自体、彼らのやっていることにとても近いのです。
例えば、ミュージシャンのビョーク。彼女が歌う内容、歌い方、出自、服装、ボディランゲージ、声の出し方……これらは全て一体のものです。私の場合、私が描くペインティングには私自身似てはいませんが、何を描くかというのはどのように絵の具を置くか、色の作り方などと同じことです。また多くの場合私がやるのは作品をサンドペーパーで磨くことです。それによって作品は平にみえますが、X線をかけてみたら何層にも絵の具が重なっていて、多くの時間を費やしたことがわかります。*3
——— ひとつの作品を完成するのに長い時間をかけるんですね。また、同時にたくさんの作品を進行させているとか。特定の作品にいつ戻るのですか?
カイヴァーノ 何をすべきかわかったときです。その点は文章を書く時と似ているような気がします。すでにもっている情報や考えを、まるでパズルのように組み合わせていきますね。私のペインティングの場合は、色、ドローイング、別の作品のことなど、これらの要素を組み合わせていって、作品自体と生成してゆきます。まるでそれらがアイデンティティをもち始めるように。でも思うようにいくまでには長い時間がかかります。いつも戻って、面白いどうかかやどう続けていくべきか考えなければなりません。
——— あなたの制作のプロセスでもうひとつ面白いのは、作品同士の関係ですね。この関係が制作を進める上でどのような影響をもつのですか?
カイヴァーノ それは私の制作全体に関わることなので、自然に起こります。手法に関すること、あるいはその時読んでいる本、描いているドローイング、これまでに学んだこと、おなかに入っているもの、その時の感情など……違う要素を持ち寄って、いろいろと試してみるのです。キッチン、あるいは実験室にいるみたいに。話すこと自体は可能ですが、複雑なことでもあるので「こんなふうです」と言い切るのは難しいですね。
——— ペインティングを始める前にドローイングをすると伺いました。ペインティングが実験室にいるみたいだとすると、ドローイングは何でしょうか?
カイヴァーノ ドローイングというのは見るという行為自体ですね。ただ単に「見る」だけでなく、ドローイングによってイメージをとらえるのです。制作のことについてたくさんお聞きになりますが、私にとってはもちろん経験も関係するけれども、同時に子供が遊んでいるような側面もあります。最も重要なことは、私の作品はトレードマークやオブジェクトを表現するのではなく、「声」を作り上げてゆくようなものであるということです。
——— キャンバスのどの部分から描き始めるのですか?
カイヴァーノ 良い質問ですね(笑)。作品によって違いますので特に決めていません。時には途中でキャンバスの向きを変えたりもします。また時にはキャンバスを直接床に置いて描いたりします。
——— だから今回キャンバスを貼る作業をギャラリーの方でしたんですね。
カイヴァーノ そうです。展覧会にはいつも展示する数の2倍の作品を持って行きます。アトリエで「これで良い」と思った作品でも、展示スペースでみてみると「まだ加筆が必要」と思うこともありますので。
——— それでは今回の小山登美夫ギャラリー京都での展示プロセスについてお話しください。まず壁の色を考えることから始めましたね。
カイヴァーノ 展示スペースの壁を塗るということは、前からやってみたかったことでした。作家として、作品をつくる側ではありますが、同時にそれらとの関係を築きます。時には作品が話しかけてくることがあります。つまり私は作品と対話しているのです。時にはうまくいかず苦しむときもありますし、楽しくて音楽を感じるような気分になることもあります。作品に深く関わりをもつんですね。なので私の場合はかなり主観的です。だから長い時間が必要となるのです。
一度作品がアトリエを離れてギャラリーに着くと、また違うようにみえることがあります。今度は少し遠い存在となります。私の作品は抽象ですので、何が描かれているのかはっきりしませんし、どの部分からみるかも決まっていません。つまり鑑賞者にかなりの自由が与えられます。能動的にみるか、あるいは無視するかのどちらかです。また私の作品はオープンで、未完であり、また加筆することがあります。どこで一時的にでも制作をやめるか。それは何か面白いことが起こってきている瞬間です。完成し決着がつくわけではありません。それは起こっている途中の状態です。だから展示スペースはまるで演劇のステージのように、作品の個々の声を尊重するために重要となるのです。展示の仕方が変われば、作品の見え方も全く変わります。
——— 展示スペースだけではなく、街、環境も影響しますか?
カイヴァーノ もちろんです。とても重要です。昨日タクシーに乗って京都の細い通りをみていると、骨董を売る店を見つけました。また建築や濃い色の木の家。とても美しかった。このような環境において、人々は私の作品をみるわけです。彼らにとってはどうか分かりませんが、私にとってはとても素晴らしいことです。
——— 「音楽」の作品についてもう一度聞かせてください。ひとつの壁に5点も展示しました。最初は驚きましたが、この展示の仕方は「音楽」に関連するのですね。 *4
カイヴァーノ クラシック音楽においては、様々なムーブメントがあります。特にシンフォニー、たとえばモーツアルトなんかです。あるひとつの旋律を聴いていると、次の旋律が来るのがわかります。そして次の旋律を聴いている間も、その前のものが共鳴して心の中に残ります。それは照明や気温が違う部屋に次々に入って行くような感覚かもしれません。違う作品を並べるとこのことは起こりません。この5点は色、ライン、スペースの使いかたなどで互いに関連しあっています。
スペースは重要な要素ですね。キャンバスというのは二次元のものですが、新しいスペースというものをつくらなければなりません。時には主観性、心、感情に関連します。日本の作家たち、例えば北斎なんかはとても興味深いスペースの使いかたをします。多くのヨーロッパの作家が日本の浮世絵に影響を受けていますね。ゴッホもそうです。他にも抽象で面白い仕事をしている作家がたくさんいます。長い伝統があり、私が急にやり始めたというのでは全くありません
——— 今回セットになっている作品が2組ありますね。*5 *6
カイヴァーノ 通常は作品は一点ずつ展示します。あまりそのことが好きではありませんでしたが、長い間やっていました。今は自分がやりたいと思うことを通すようにしようという思いがあります。これらの作品はセットだと面白いことを言っているような気がします。同じ時期に制作していましたから。長い付き合いなのです(笑)。
——— 何か付け加えたいことはありますか?
カイヴァーノ そうですね。思うに、私の作品は橋のようなものです。現実からそうでないもの、未完のものへの。新しいスペースを開くようなものです。
——— 私たちはプレスリリースにあなたの次の言葉を引用しました。ペインティングとは、「イメージを問う一つの方法」であり、そこでは「視覚的なオブジェクトが隠された深部をともない、ある種の反理性的な真実を明るみにする」。
カイヴァーノ それは引用です。フランスの象徴主義といわれるグループがいました、オディロン・レドン(Odilon Redon)などです。彼らは具象をやっていましたが、このようなことについて述べていました。あとはマックス・エルンスト(Max Ernst)などですね。これらのアーティストが私にとって重要なのは、手法がイメージと結びついているという点です。スペースという点についてはゴッホや日本の浮世絵の作家が重要です。またこれはまだどうアプローチしていいか自分でも分からないのですが、私が女性のアーティストであることは重要なことです。
——— アルゼンチン出身ということはどうですか?
カイヴァーノ あまり「アルゼンチンのアーティスト」という感覚はありません。私の家族はヨーロッパ人で、母はユダヤ人です。ペインティングを始めたのはイギリスに行ってからですし。
——— アルゼンチンでは美術史を学んだんですね。
カイヴァーノ 実はまず生物学を勉強しました。アーティストになりたいと言うと、「両親が4ヶ月毎日描いてみなさい」と言いました。とても楽しかった。両親はまた「アーティストになるんだったら、美術史をまず勉強しなさい」とも言いました。6年間美術史を勉強して、美術館やキュレーターと仕事をしました。ロンドンに来てからペインティングを始めました。ですので自分はロンドンに属している、という気がしています。
Interview by Tomio Koyama Gallery